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農薬の深イイ話

2023.04.01

無人航空機による病害虫防除の現状と課題(その2)

○技術上の課題
 今や、スマート農業の普及や、みどりの食料システム戦略における化学農薬50%削減(リスク換算)の目標に向けて、マルチの利用が脚光を浴びています。
 マルチの長所は無人ヘリより安価なことに加え、軽くて持ち運びが容易なこと、マイドローンであれば防除したい時にいつでも散布できることです。
一方で、いくつかの課題があります。
① 農薬タンクを装着しての飛行となり現在のバッテリー能力では1回のフライトで10~15分間の飛行で、搭載する農薬も10~15kg、カバーする面積が1ha~1.5haです。頻繁に作業を中断してバッテリー交換と農薬補充を行うこととなります。予備のバッテリ-を何本も用意し、充電には一度冷却する時間が必要とも聞きます。無人ヘリに比べ散布時間がかかり、お昼までに散布を終えられない、ということがおこりがちです。バッテリー能力の向上が課題です。
② 無人ヘリに比べて軽量のため飛行には風の影響を受けやすく、また、ダウンウオッシュが弱いため強風下では散布した農薬が隣接圃場に飛散してしまうことが起きやすいことです。高価な農薬が、目的とする作物に落下せず隣の圃場に流れてしまうことは、防除を依頼する農家にとって困ったことです。空中散布は風との戦いです。機体に風向・風速を感知しAIで自動的に散布経路や速度、高度を微調整する機能を持たせて確実に作物に落下・付着させるようにできればいいのですが、どうも夢物語のようです。現状では、天候に応じた飛行の判断と操縦者による微調整が重要です。
③ 自動操縦による散布が期待されていますが、制御機器上での飛行経路・散布区間の設定に時間を要しがちです。すぐに離陸できません(メーカーのパンフレットをみても書いていません。)。また、GPSなどで位置情報をしっかりとらえていないと、設定が実圃場の境界と1mずれただけでオーバーランして隣接する圃場に散布してしまうことになります。経路設定の時間短縮と正確性が求められます。また、散布は機械にお任せではなく圃場のどこを飛行している時に散布がONになりOFFになったのかの散布記録を後で確認ができる機能も重要です。そして、万が一第3者の侵入や突風の時にすぐに手元に制御を戻せる強制介入の機能も重要です。
④ 農薬・肥料のスポット散布が、施用量の節減につながるとして期待を集めています。でも、カメムシ、ウンカなど飛翔する害虫やいもち病菌など胞子が風で運ばれる病害にどれだけ効果があるのか、都道府県農業試験場など公設試験場の試験結果をみたことがありません。従来の予防的防除、一斉防除の考え方の転換になります。公設試のさらなる検証が求められます。
⑤ マルチはいろいろな機種が販売され、散布装置の能力も様々です。農薬製剤と散布装置の吐出性能との適合性が問題となります。とりわけ、複数の農薬を現地混用した場合の散布装置のノズルとの相性が心配されます。いろんな機種でのいろいろな農薬の組み合わせでの適合性試験が求められます。
⑥ そして、無人航空機用の農薬の登録適用拡大が進んでいます。無人航空機による散布用の農薬として平成31(2019)年3月時点で646剤だったものが、令和5(2023)年1月時点で1,128剤となっています。これは、平成31(2019)年の登録変更申請の運用改正により、地上防除で登録のある農薬を無人航空機用に希釈倍率を高濃度に変更する場合、単位面積当たりの有効成分の投下量を変更しないのであれば(1,000倍1,000㍑と8倍8㍑では有効成分投下量は同じ。)、変更登録申請には薬効試験、作物残留試験は不要で薬害試験のみ(しかも、無人航空機で散布する必要はなく、ポット試験で如雨露で撒いてもいい。)となったことによる効果と思われます。平成31(2019)年に農林水産省がこの運用改正の案を政府のパブリックコメントに提示した際に、この運用改正の目的と科学的根拠データを農林水産省ホームページに掲載するよう求める意見に対し、「明示することを予定しています。」との回答を公表しましたが、いまだに見当たりません。この運用改正を受け、野菜、果樹等への適用拡大も進んでいます。でも、稲、麦等のように面的広がりをもって栽培する作物については均一散布の飛行諸元(飛行経路、高度、速度、散布幅)は確立されていますが、野菜は畝たて栽培で畝の間は土であり、果樹は立体型植物で上下に茎葉・果実があり、着実な付着による防除効果を得るための飛行諸元と散布液量が確立されているとはいえません。特に、葉裏への確実な付着を得られることが、現場で切望されています。マルチで省力化がなされても、せっかくの農薬が付着しなければ意味がありません。無人航空機の濃厚少量散布への登録適用拡大申請では薬効試験は不要となりましたが、散布効果の繰り返しの実証試験が課題です。

○今後のマルチの利用
 マルチは、スマート農業の補助事業のメニューとして必ず登場し、コロナ禍での経営継続支援の補助事業等で導入費用が軽減され農家への普及が進みました。しかし、マルチのモデルチェンジのスピードは速く、更新のための減価償却は大丈夫だろうか、また、これから航空法に基づく機体登録や機体認証の更新の際には過去の整備点検の記録を求められますが毎年の整備点検コストは大丈夫だろうか、さらにバッテリーやパーツの交換コストは大丈夫だろうか、と経営面で心配になります。
 マルチを農薬散布だけに利用するのはもったいないと思われます。農薬、肥料、種子、融雪剤、花粉等の散布に利用する、散布をしない時は、タンクをとってカメラを装着して、自動操縦で圃場の見回り、生育調査、野生鳥獣の監視等に利用する、さらに資材や収穫物の運搬にも利用すれば、性能を十分に生かせると考えます。自分の圃場規模や営農体系に応じて、まさにマルチに利用して省力化を図れる、そんな機種が登場してくることを期待しています。

(ペンネーム 北国の春)

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