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農薬の深イイ話

2016.12.01

鋭い観察眼から生まれたジベレリン

ぶどうの季節になるとデラウエアー、巨峰、ピオーネなどの品種の種無しぶどうが店頭にならぶ。種の無い品種だと思っている人がいるが、これは開花後のぶどうの花房を一房ずつ植物ホルモンのジベレリンの水溶液に浸漬することによってできるのである。
ジベレリンは1926年(大正15年)台湾総督府農事試験場の技師であった黒沢英一が「稲馬鹿苗病の分泌物に関する研究」においてカビの一種馬鹿苗病菌が分泌する未知なる物質が稲の芽生えの生長を促進することを発見したことに始まる。馬鹿苗病とは稲の育苗中にひょろひょろと徒長する苗があり馬鹿苗といわれていた。黒沢は、この馬鹿苗を集め病原菌をろ過除去した液に健全な苗を浸漬すると同じように生長したことから、生長を促進する未知なる物質が存在することを発見した。植物ホルモンの発見である。
その後、この発見を受け継いだ東大の薮田貞治郎・住木諭介らは1938年(昭和13年)大量培養した馬鹿苗から純粋な結晶を取り出し、構造を決定しジベレリンと命名した。戦後、英米日において多種類のジベレリンが各種植物から単離され植物に普遍的に存在し植物ホルモンとして重要な役割をはたしていることが確認されていった。
戦時中の暗黒期、情報が閉ざされ世界に遅れをとっていた時代に世界を一歩リードする独自の研究が日本でなされていたことは特筆すべきことである。
植物ホルモンは5つ存在しどの植物にも含まれており、発芽から結実、死に至るまで植物の一生をコントロールしている。5つの植物ホルモンとは植物の生育初期に生育を促進するオーキシン、ジベレリン、サイトカイニン、生育晩期に終焉に向かう植物の生育を阻害するエチレン、アブシジン酸のことである。

5つの植物ホルモンはそれぞれ農業場面で各種作物のコントロールに使用されているが、ジベレリンは我が国でもっとも多く使われている。種無しぶどうをはじめ各種園芸作物や花き・花木の付加価値を高めるために広く使用されている。

今年のノーベル賞は、東工大の大隅良典教授が光学顕微鏡で酵母の細胞を観察し、タンパクの再生が液胞の中で行われていることを発見したことで受賞している。見るべき人が観れば不思議な現象には新しい発見はあるものである。黒沢英一の発見もその一つであろう。(2016年12月掲載)

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