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農薬の深イイ話

2022.04.01

お帰りツバメ

帰り ツバメ
―嬉しくも大円描く初燕―
わたしの住んでいる町では例年3月の下旬にツバメはやって来る。去年は3月23日に電線に止まっているところを見つけた。いつもと変わらぬ姿に出会うと、「あーまた帰って来たな」とその無事を喜び、季節が間違いなく今年もめぐって来たことに安堵する。
山に挟まれた狭い町の中央には、旧鎌倉街道の国道とJR線が並行しておよそ1キロ余り走っている。歩道のない国道の両側には商店や住宅、最近では戸を閉めた家に代わって低層のマンションが並ぶようになった。ツバメはそれらの建物の、いわゆる軒下に残された巣にやって来る。
かつては国道を外れた周囲には大きな湿地や田畑が広がっていて、ツバメの巣は国道沿いの建物に20個あまりも数えられ、さらには低い山を越えた谷戸にあった国鉄の社宅の天井には徳利型のコシアカツバメの巣もあった。しかしこの40年余りのうちに湿地や田畑は住宅やマンションに埋め尽くされ、水辺や緑もすっかりなくなって、巣は半減した。
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巣は、建物の日よけの内側の角や1階のガレージの蛍光灯の笠の上と天井に近い壁、コンビニの入り口横の排気口の上など、あたかも外から縄のれんをくぐるようにして出入りできるような場所にあるが、一か所だけ、荒物屋ではガラスを1枚外した天窓から入りこんだ店の蛍光灯の上に何年も続いている巣もある。いずれも国道という彼らの飛翔のスピードに見合った空間に面し、国道を外れた横道には1つしかない。そしてほとんどが1階程度の高さの位置にあり、同じような造りをしていても1階以上の高さの所にはない。また、窮屈そうに巣の上部と天井との間はあまり離れていない。これはい餌の虫が飛んでいる高さとか、カラスなどの捕食者から雛を守るためとか、色々と理由があるのだろう。人間の生活圏の中に入りこんで、うまく付き合ってゆく知恵を付けてきた長い進化の結果出来上がった彼らの方法である。
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H・V・ホフマンスタールの「道と出會」(富士川英郎訳)という小品の中に、「……はてしのない大空から落ちてきながら、彼等はどうしてこの道を知っていたのだろう? 多くの土地のうちでこの土地を、多くの谷のうちでこの小さな谷を、多くの家屋のうちでこの家を、どうして知っていたのだろう?……」という、ツバメが再び巣に舞い戻ってくる不思議を言っている下りがある。確かに、この時期になると、地方の民家などで「もう何年も決まっていつものツバメが帰ってきた」というようなことがニュースになり、同じ個体が同じ家に帰ってきているように見える。昔読んだ仁部富之助という人の本の中でも、同じ夫婦が帰ってきたといい、番の片方がいなくなれば代わりの相手を見つけて帰って来たとも記述していた記憶がある。なんとも感動的な思いがする。
しかし、成鳥の寿命は1.6年というし、成鳥が再び帰って来る確率は50%だともいう。悲しいかな、毎年古巣へもどってくるといってもそれは後進に交代しながらの、いわば引継ぎつがれた同じ姿の個体ということになりそうである。
ともあれ今年もまたこれから半年の間、彼らの子育てや巣立ちの様子が楽しめるのは幸いである。(鎌倉市在住 山室眞二)

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