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農薬の深イイ話

2023.03.01

無人航空機による病害虫防除の現状と課題(その1)

―空中散布に思うことー

○航空防除の歴史
航空防除は、病害虫や雑草防除の過酷な労働作業からの解放、効率的な病害虫防除に多大な貢献を果たしてきました。
 昭和30年代に有人ヘリによる航空防除がはじまり、約30年たった平成の初めころに無人ヘリの事業化がはじまりました。さらに、約30年たった平成28年ころからマルチローター(いわゆるドローン。以下「マルチ」と言います。)による防除が登場してきました。
 有人ヘリによる防除は、農村地域への住宅地の進出、環境への関心の高まりなどから、散布除外区域がモザイク状に点在するようになり、まとまった広い防除面積がとれなくなったことから、次第に機動性に富む無人ヘリが利用されるようになりました。そして最近では、農業法人等による大規模経営が進展し適期の防除のため無人ヘリの共同防除の順番が来るのを待っていられないとの声が高まったり、また、稲の品種の多様化により圃場ごとの防除適期が分散したり、さらに安価で持ち運びやすいマルチをマイドローンとして購入して自ら散布する圃場が増えてきたりしています。ここでも、防除除外区域がモザイク状に点在するようになり、無人ヘリによる共同防除の実施面積の集約が次第に難しくなってきていると聞きます。まさに、歴史は繰り返しているといえます。
 しかし、防除面積、所要時間からみた効率性の観点からは、有人ヘリが圧倒的に高効率であって、無人ヘリ、マルチの順番になります。現在、「なんでもドローンによる防除」が注目を浴びていますが、市街地周辺や中山間地など、有人ヘリや無人ヘリの手の届かないところの防除にマルチが効果を発揮すると思われます。

○制度の変遷
 無人航空機による防除は、平成の時代は、農林水産省の行政指導により、飛行の安全と農薬事故の防止が図られていました。罰則を伴う法令による規制ではありませんでしたが、国、都道府県、市町村、JA、地域協議会等の各組織一体となって、実態把握と安全対策の研修・指導がなされていました。
 平成27(2015)年に総理官邸屋上にドローンが落下した事件を契機に航空法が改正され、無人ヘリとマルチによる空中散布は、航空法の許可・承認を取得することが義務付けられました。当時は、農林水産省は、無人ヘリとマルチによる空中散布については実施状況の把握と安全対策を管理・指導するとして新たな行政指導を講じ、航空法の許可・承認の手続きについても、国土交通省と協議して、1年間を通じて全国の農用地を対象に散布飛行できるよう包括的な申請の仕組みを作りました。令和元(2019)年に政府の規制緩和により、マルチについては農林水産省の管理の外に出て、許可・承認の手続きは個々に対応することとなりました。せっかくの規制緩和も、農林水産省への防除面積の実績報告等がなくなったので、マルチがどれだけ農村地域に普及してきたのかの成果が集計できない状況が続いています。
 そして、令和2(2020)年及び3(2021)年に航空法が改正され、無人航空機に関して大きな制度の変革が行われました。「空の産業革命」と銘打って、第3者上空、補助者無し、目視外の飛行を実現するべく、無人航空機の機体登録制度(国に機体情報を登録し、かつリモートIDという発信器を装着させ警察等が飛行中の機体の素性を把握できるようにするもの。)、機体認証制度(国が機体の安全性を認証するもの。)と技能証明制度(国が操縦ライセンスを交付するもの。)が制定されました。これらは、レベル4と言われる都市の上空でも、自動操縦で制御機器の画像をみながら撮影、測量、点検や運搬の飛行を可能とすることをねらいとしています。この飛行はこれまで許可されていなかったもので、機体認証と技能証明の取得が必須です。一方、これまで認められてきたレベル1(目視内、遠隔操縦)、レベル2(目視内、自律飛行)やレベル3(無人地帯、目視外)と言われる飛行は、従前と変わらず許可・承認を得ることで飛行が可能です。機体認証と技能証明は必須ではありませんが、取得すると許可・承認の審査は簡略化されるとしています。また、夜間飛行や人口密集地上空の飛行、目視外飛行などはリスクは低いとして機体認証と技能証明を取得すれば許可・承認は要しないこととなります。なお、国土交通省は、従来の飛行では、以上のように機体認証や技能証明を取得するかは任意と説明しますが、他方で許可・承認の審査が簡略化されている国交省ホームページ掲載機体や民間ライセンスの運用は、数年後には、国の機体認証と技能証明に集約するとの方向性を示しています。
 では、農薬空中散布はどう変わるのでしょうか。基本的には、いままでの許可・承認取得で空中散布の飛行はできますので、防除ができなくなることはありません。制度上は、国の機体認証を取得した機体で、国のライセンスを取得した操縦者であれば、市街地周辺や目視外での生育調査等の飛行でも許可・承認を要しないこととなりますが、農薬空中散布は「危険物輸送」と「物件投下」を伴いますので、リスクが高い飛行に分類され、機体認証・技能証明があっても個別の許可・承認は必要となります。現時点では、空中散布にとっては機体認証と技能証明はあまりメリットがあるとは言えないでしょう。ただし、国家ライセンスを取得すると、空中散布以外の空撮や運搬等の飛行もできますので、操縦者の方が「私の操縦技術は高いです。」とPRして農業法人などへの就職活動に利用できるメリットはあると思われます。なお、マルチによる空中散布は人の立ち入りの少ない農用地の上空を低い高度で飛行させることからリスクは小さいとして、機体認証・技能証明・リスク管理措置などを条件に許可・承認を免除する検討がなされていると聞いています(寄稿時点でまだ結論はでていません。)。そうすると、マルチでの機体認証と技能証明のニーズが注目されるでしょう。でも、機体認証の前提となるメーカー申請による型式認証はハードルが高いと聞きますので、今後のマルチメーカーの動向を見ていく必要があるでしょう。
ここで、航空法の新制度(機体認証・技能証明)の問題点は、一般的な機体の安全性の認証、操縦の技能の証明であって、空撮、運搬、測量、点検といった用途別の性能の確認、操縦の訓練には関与しないということです。農薬空中散布であれば、安定した平行散布飛行や均一散布ができる性能があるか、空中散布特有の飛行事故(架線や枝等との接触)や農薬事故(ドリフトによる隣接圃場の作物への被害など)を起こさない操縦技能があるか、といった性能確認、技能訓練が行われないことにあります。制度上は、機体認証と国家ライセンスを取得すれば、許可・承認を得て物件投下を行うことは可能ですが、空中散布の安全な飛行、農薬適正使用のためには、農薬に関する知識と散布技能の訓練がとても重要です。これからJA、農済組合、農業法人等が空中散布を実施、依頼する際には、航空法の手続きを遵守しているかの確認だけでなく、空中散布特有の機体性能を有しているか(均一散布できるか、ボタ落ちしないか、隣接圃場へドリフトしにくい粒径かなど)、散布技能の訓練(農薬取締法等の知識と実地訓練)を修了しているかのチェックが必要です。
 加えて、航空法の新制度では、4つの運航ルールが義務化されました。飛行計画の通報、飛行日誌の作成・携帯、事故報告及び負傷者の救護です。飛行計画の事前通報については、国土交通省には、空中散布では一日のうちに散布飛行する圃場を次々と移動するとの特徴に配慮してもらい、一日分の散布面積分をまとめて広域にシステムに入力できるようにしてもらっています。一方、事故報告では、人身事故は重傷以上が対象となりますが、物損事故は軽重を問わず国に報告することとなっています。怠ると罰則を伴います。空中散布は事故が多い分野と見られがちです(令和3年、国交省への事故報告139件中45件(うち2件は肥料散布)が空中散布に関わる事故でした。別途、農林水産省への農薬事故報告が5件ありました。)。これまでも、空中散布における飛行事故、農薬事故の防止対策の徹底に努力されていると思いますが、今後さらなる細心の注意が必要です。
(次号に続く)
(ペンネーム 北国の春)   

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